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絶滅魚クニマスの再発見

今朝のメーリングリストで、絶滅したと考えられていたクニマスが約70年ぶりに発見された、というニュースを知った。たいへん驚くとともに、嬉しいんだけど素直に喜べないような、複雑な気持ちになった。

日本の淡水魚・汽水魚で「絶滅」とされているものは以下の4つ。

・チョウザメ………………………北海道の河川
・スワモロコ(タモロコの亜種)…長野県の諏訪湖
・ミナミトミヨ……………………京都府、兵庫県
・クニマス(ヒメマスの亜種)……秋田県の田沢湖

クニマスは日本で最も深い湖、秋田県の田沢湖のみに生息していた固有亜種である。田沢湖はかつて、摩周湖に迫るほどの透明度(35m以上!)を誇る美しい湖であったらしい。しかし1940年に発電所の建設と農業振興のため、別の水系である玉川の水が導入された。この玉川の水はpH1.1という強酸性であり、生きものが棲まないため「玉川毒水」と呼ばれる。この水が流れ込んだために湖の水質は酸性化し、田沢湖の魚類はほぼ死に絶えたという。透明度も10mまで低下した。現代であれば大規模な反対運動が起きるようなことだが、時は戦前、電源開発等が優先されたのだろう。

その後、田沢湖の水質はpH4.5の酸性を維持していたが、対策として「玉川酸性水中和処理施設」が作られ、その運転によって現在ではpH5を上回るようになっていて、ウグイ・ギンブナ・コイが生息しているとのこと。まあそこそこの成果を上げているようだが、かつての環境には程遠いと思われる。

さて今回、クニマスが発見されたのはこの田沢湖ではない。なんと山梨県の西湖である。歴史を遡ると、1935年に田沢湖からクニマスの卵が10万粒放流されたのだという。つまり国内外来種として、本来の生息地ではないところで生き延びていたわけである。素直に喜べないのはこのため。生物多様性保全の観点から避けるべき行為が、今回は皮肉にもプラスに働いたということになる。


ちょっと余談。
サケ科魚類は川で産卵・孵化するが、その後海や湖に降るか、河川にとどまるかによって生態も形態も大きく変わる。たとえばヤマメとサクラマスは同種だが、見た目はとてもそうは思えない。川と海とを行き来する種の場合、その回遊があまりにも規則的だと、例えば地殻変動や氷河の発達などが起きて流路が変化すると、移動が妨げられて種を存続できなくなる可能性がある。そうなると、海に降下しなくとも小型で成熟したり、成熟時の年齢、大きさが多様であるほうが種や集団の存続に有利だと考えられる。つまりこのような生態・形態の多様さは、生息環境の変動に柔軟に対応するための保険機構だと考えられる。逆に考えると、その種の生態を解明することは、水域の成因や地質的な歴史を紐解くヒントにも成り得ると言えるだろう。学術的にも重要な存在なのである。かくいう田沢湖も、どのようにしてできたのか未だに不明だという。クニマスがそれを解明する鍵を握っていないとも限らない。


閑話休題。
環境省のレッドリストは基本的に5年ごとに改定されるので、順当に行けば次は2012年、クニマスが絶滅のカテゴリーからはずれることになるのだろう。その時の扱いは?自分なら「野生絶滅」とするだろうな。いずれ田沢湖の環境が回復し、西湖から田沢湖へとクニマスが里帰り・定着した暁には、絶滅危惧Ⅰ類にしてもいいと思う。

しかし「酸性水中和処理施設」が無いと維持できない環境なんて、自然ではないし持続可能ではない。本来なら1940年に導入した玉川を本来の流れに戻し、田沢湖への流入を止めるべきだろう。その上で時間をかけて少しずつ環境を回復させ、ようやく西湖からの導入…かなり気の長い計画が必要だろうと思う。でも今回の発見を機に、そのような機運が高まればとても素晴らしいことだ。クニマスの復活は地域活性化にも繋がるだろうし、田沢湖の再生はやる価値がある。今後の動きに期待したい。

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17:01 | 魚類 | comments (2) | trackbacks (0) | edit | page top↑

クヌギカメムシの産卵

今日は晴れにもかかわらず、一日家の中でグダグダ。
なので一昨日の写真から。

岩畳の端っこに、クヌギが何本か生えていた。
この時期ならきっといるだろうと樹皮を流し見していくと、すぐに見つかった。
クヌギカメムシだ。この個体は腹がパンパン。まさに今、産んでいるところ。
クヌギカメムシの産卵1

こっちでも産卵中。産み出された直後、卵は赤い。
時間が経つと緑色っぽいゼリーみたいになる。数本のクヌギの木には、
このゼリーがたくさん産み付けられていた。
クヌギカメムシの産卵2

しかし同じ木でヨコヅナサシガメの集団が越冬していたので、
奴らの餌食になる個体も多いかもしれない.....人気ブログランキングへ
20:39 | 昆虫類 | comments (3) | trackbacks (0) | edit | page top↑

初冬の長瀞 岩畳

元同僚SSくんのお誘いで、ひさしぶりに長瀞町に行ってきた。
長瀞町といえば荒川のライン下りと紅葉、そして岩畳が有名だ。
カーナビの「埼玉県に入りました」というアナウンスとともに表示されるイラストは、
大抵がここのライン下りの絵である。
長瀞-荒川
紅葉のピークは過ぎているし、平日ということもあるのか、人は全然いない。
しかしこの岩畳の景観はいつ見ても面白い。荒川沿いに、文字通り岩の畳を敷いたような平場が続いている。地質学をやる人にとっては面白い場所らしい。所々、岩のくぼみに水が溜まって生きものの生息場になっている。何年か前に来たときには、ここで大きなスッポンを捕まえたこともある。
岩畳の風景
キトンボでもいないかなと期待しながら歩くも、さすがに12月。
しかもこの日は曇りで生きものはほとんど見られなかった。
岩畳のミヤマアカネ
水たまりに浮かんだミヤマアカネの亡骸が、秋の終わりを告げていた。
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22:49 | 環境・景観 | comments (2) | trackbacks (0) | edit | page top↑

秋ヶ瀬のハンノキにいた虫

昨日のつづき。
ピクニックの森には池があり、そのまわりにはハンノキが生えている。
ハンノキで冬場にすることといえば、はやりミドリシジミの卵探しだろう。
秋ヶ瀬のミドリシジミ卵
少しさがすと、それらしきものがポツポツと見つかった....が、
いかんせん小さくてよく見えない。そこで高倍率マクロで拡大撮影してみると、
やはりミドリシジミの卵だった。

それから思わぬ副産物が。
薄っぺらくて地味~な虫がハンノキの幹にへばりついている。
どこに目があるんだか、よくわからない。
ミミズク幼虫
こいつはミミズクの幼虫のようだ。なんかうまく撮れなかったが、
自然光下で肉眼で見ると、見事に幹に同化している。
体の薄さがわかるように、真横からも撮ればよかった。

こういった地味な生きもの探しをするようになると、冬になったなあと実感します....人気ブログランキングへ
23:59 | 昆虫類 | comments (2) | trackbacks (0) | edit | page top↑

秋ヶ瀬公園の外来種駆除

ひさびさのフィールド。
研究室の先輩、DARKLOADさんと一緒に秋ヶ瀬公園を2時間ばかり歩く。
特に目的の生きものがいるでもなく、ブラブラと散策である。
秋ヶ瀬の池
考えてみれば秋ヶ瀬公園で遊ぶのは初めてだ。
これまでここで仕事をする機会も無かったし、なんとなく足が向かなかった。
ピクニックの森という名の散策路では、軽自動車一台分ぐらいはするんじゃないかなあ、
と思われる巨大なバズーカレンズを背負った人と何回かすれちがう。
野鳥撮りには人気がある場所のようだ。

園内ではこんな看板を見かけた。
「公園内の池において、特定外来生物の駆除を行っています」
外来種駆除の看板
県の予算で外来種駆除が行われているなんて、初めて知った。
池で特定外来種といえば、オオクチバス、ブルーギル、ウシガエルあたりだろう。
DARKLOADさんの話では、ここらの池は夏場干上がることもあるというから、バス・ギルが安定して居着いている水域は限定されているかもしれない。ウシガエルは干上がっても水が溜まればまたやってくるから、一筋縄ではいかないだろう。いずれにしろ、外来種駆除はある程度の範囲内で根絶させるまでやらなければ意味が無い。途中でやめれば、また増えて元の木阿弥。金が無駄になるだけである。

それにしても、本当にウシガエルも対象だとしたら、こいつをどうやって根絶させるつもりだろう。こいつの根絶成功例は、小笠原の小さな水域の話しか聞いたことがない。そこでは魚用のかご罠で池をぐるりと隙間なく取り囲み、すべての成体を捕獲して根絶したらしい。しかし秋ヶ瀬の池はけっこう広そうで形も複雑だし、人間の出入りも多いだろう。かご罠で池を全部囲うなんて現実的ではない。
この業務を受託した会社がどんな対策を打つのか、とっても気になる。

ウシガエルは本当にやっかいです.....人気ブログランキングへ
23:59 | 外来種 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑